病院の使い方

 整体師は医者でもカウンセラーでもないと言いました。
私は『相手を俯瞰してみる人』だと思っています。俯瞰してみた結果、これは整体院ではなく病院だな、という相手もいます。
整体師は、本人が自力で治せるところを手伝う人です。自力とは治癒力とも言います。自力で治せない物は治療が必要です。
精神的な疾患として鬱病がありますが、鬱病の人は病院に行かなくてはダメ。鬱状態の人は整体院にどうぞ。この境界を見誤ってはダメです。心療内科でも鬱状態の人を鬱病と診断してしまっていることが多いように思います。鬱状態から鬱病になって行く人もいます。
鬱と限らず、私が注意している点は、予約をグルグル変更してくる、定休日や営業時間外に予約の連絡をしてくる、予約を入れていない時間に頻繁に訊ねてくる、物をいっぱい持ってくる、という状態が続いたときは気を付けてみています。これは私の状況が見えなくなっていて不安定な精神状態の時に起こっています。まず注意をして止まるかどうか。止まらない場合は、おかしいよ、と直接言います。それでも言われたことも忘れて繰り返す場合は、心療内科に行って、と言います。冷たいように思うかもしれないですが、整体院では治らない症状です。
定休日や営業時間外に連絡をするな、という事ではありません。「時間外に失礼します」の一言があるかどうかで、こちらの状況も理解しているかの判断が付きます。
「いいじゃない、いいじゃない」と言って他の人の施術時間中にチャイムを鳴らし、ホウレン草やサランラップを持ってくる人がいました。何度も「突然来るのはダメだよ。ここは予約で回っているお店だから」と伝えました。それでも止まりません。施術にやって来る時に、賞味期限切れのものを持って来ました。「認知症かもしれない、と私は思っているよ」と伝えると、ピタリと止まりました。彼女は七十一歳・一人暮らしです。もしも認知症であった場合、どう考えているかと聞きました。「病院に行って入院する」と言います。認知症で入院はできません。
迷惑だからもう来ないでね、というのではなく、もしも認知症になったらどうしようか、と私は一緒に考えます。施設はどんなものがあるのか、どうしたら自宅で生きていけるのか。最初に検査に行く病院は何科でどこにあるのか。
この一年で彼女の自宅周辺で仲良くしていた人が、亡くなったり、施設に入ったり、引っ越したりしていました。とても寂しく感じ、不安定になっていたと思います。明るく元気に一人でも生きていこうと思っていましたが、空回りしています。その状況を私は知っていました。
それらを踏まえたうえで、話をしたんです。そういった行動を起こしていたのには理由があります。
彼女は自分の行動を振り返り、家の中の片づけを始めました。

 病院も色んな科があります。近所のクリニックを主治医としている人がいました。そのクリニックは『内科・外科』と書かれています、ある日、階段を踏み外し、足首を捻挫しました。急いでそのクリニックを訪れ、レントゲンを撮ってもらうと骨に異常はないと言われて、湿布と痛み止めを処方されました。私がお見舞いがてら自宅を訪ねると、象のように足首は腫れあがっていました。捻挫には、軽度・中度・重度の三種類があります。彼女は重度に分類される捻挫でした。
捻挫は最初の処置で治るまでの期間が変わります。安静・冷却・圧迫・挙上のRICE処置がされていませんでした。せっかく負傷後すぐにクリニックを訪れたというのに。ましてや彼女は六十九歳、一人暮らしです。
「このままでは治るのに時間がかかるから、今からでも接骨院か整形外科に行っておいで。松葉杖も出してくれるから」と勧めても、最初に診てくれた先生に悪いから、と気兼ねして行こうとしません。
安静とは固定をすることです。接骨院が得意とするところです。柔道整復師は包帯を使った圧迫・固定がとても上手です。三日に一度は炎症を抑えるクリームを使って早く治るようにマッサージをしてくれます。いくら説明をしても、途中で病院を変えるなんて、できない、と彼女は言います。じゃぁどうやって生活するの、というのはそのクリニックはみません。買い物もしなくてはいけない、ゴミ出しもしなくてはいけない。この状況では二ヶ月以上かかります。
もう腫れるだけ腫れてしまいました。片足を床に付かないように歩いているので、肩も腰も無理な力が入っています。私はネットでギブスを探し、それを彼女に購入してもらうように言いました。腫れを引かせるには冷却しかありません。保冷材も使ってとにかくその晩は冷やし続け、足を高くして寝るように指導しました。炎症が収まった後、フットバスを持って行き、市販の痛み止めクリームを使ってリフレクソロジーもしました。
料金を取ってこれらの行為をすると医師法に引っ掛かるでしょう。私はお見舞いのついでだと言ってこれらの事を無料で行いました。普通に歩ける状態に戻るまでは、腰にも肩にも、捻挫をしていない方の脚にも負担はかかります。これらをほぐすのに別途時間を取って、料金を頂く施術もしました。
ようやく足が床に付けるようになって、体重をかけれるようになったら足踏みの練習です。ここらへんは理学療法士の分野だと思います。それでも私がやったのは、今までの生活に戻るため、です。
どこまでを無料で行い、どこからは有料かは、医者がやるべきところか整体師がやるところかを把握していないと線引きができません。
内科・外科では捻挫は診ないんだよ、他の病院を紹介してくれて、わざわざ救急車で運んでくれることはないよ、と彼女に伝えました。次回は気を付けます、と言っていました。
病院の使い方を勘違いしている人はとても多いです。自分の症状は何科に行けばいいのかわからない、という人も多いです。その結果、たらい回しにされた、と嘆きます。それはとても悲しい事です。

先日、のどの調子が悪い人が私のお店に来ました。喉を治してくれ、と言いに来たのではありません。身体をほぐしにみえたのですが、話のついでに出ただけです。
「三週間も喉の調子が悪くて。癌かもしれないから大きい病院に予約を入れたら二週間待ちなのよ。病院って混んでるのよね。二週間後には治っちゃうかもしれないわ」と怒っています。
長い付き合いのお客さんだったので、私は喉の不調の原因がわかるような気がしました。
その人は常に口呼吸をしています。飴も舐めません。マスクもしません。季節は冬です。うがいもしません。喉を傷める生活をしているように思います。
「鼻の通りが悪いですか?」と聞くと頷きました。
私のお店ではアロマを焚いているのですが、まるで香りに気が付きません。ペパーミントのオイルを少し、鼻の下に塗ってもらいました。
「鼻から空気を吸い込むことで、乾燥した空気を鼻腔で湿らせて喉に下すことができます。鼻の中には鼻毛もあって、そこでフィルターのようにゴミも止めてくれるんですよ。調子の悪い時は、直接外気を喉に当てない方が良いです。喉の調子が悪い時に飴を舐めるのも、口を閉じるためです。マスクも自分の呼気を吸い込むことで湿った空気が喉に入るんですよ。口呼吸を止めて、それらをやってから病院に行った方が良いと思います」と伝えると、あら、と言って彼女は黙りました。
病院の予約の日まで、口を閉じて鼻で呼吸をし、飴を舐めてマスクをしてみる、という事になりました。それでも二週間後には予約を入れている病院に行くそうです。翌週また彼女に会いましたが、マスクもせず、飴も舐めず、口で呼吸をしていました。
病院が混むのもわかる気がしませんか?
私がお伝えした事は整体の手技とはまったく関係の無いものです。でも整体師としては関係があると思っています。
私のお店にはお医者さんも看護師さんも、お客さんとして来てくれています。彼らはとても疲弊しています。何でもかんでも病院に行く人が多すぎるからです。
不調の原因を調べて欲しくて病院に行くのは良いと思います。それと並行して、自分でできることもあります。それは『家庭の医学』に載っていることですが、読んでいない人がほとんどです。なぜなら、病院に行けばいいから。
整体師は医療制度の崩壊を止めることもできるのかもしれません。