整体師はカウンセラーではない

 話を聞けば、相談になることもあります。誤解されがちなのですが、整体師はカウンセラーではありません。カウンセリングとは相談援助と言い、専門的な技術を有するものです。安易にカウンセリングなどしてはいけないし、その必要があるのなら臨床心理士のいる心療内科を受診しなくてはいけない。相手を導こうとしたり、精神的健康の回復を試みようとしてはいけない。
私は相手の話を聞いて、自分が同じ状況だったらどう思うか、また客観的にはこう思うだろうという二つの話をすることが多いです。これは相手の状況がわかっていないとできません。
「相談なら友達にすればいい」というものではないです。家族や友達・職場の人にできない話もあります。それはその人の心の閊えが家族や友達や職場の人であることがあるからです。だからまったく関係のない第三者に話すのが一番いい。私はそう思っています。
私自身が何かで悩んでいたとします。ある程度、こうした方が良いんだろうな、とはわかっていても、それができない。やりたくない。自分にも言い分があるから。でもこれは言い訳なのか言い分なのか。納得がいかない。そんな時、誰かに聞いて欲しいと思います。それは近過ぎる人ではダメで、毎日会う人ではダメなんです。もうこの先一生会わないかもしれない、もしくは今回話したことを次に会った時には忘れていてくれる人、軽蔑しない人、正論を押し付けない人、がいい。だって正論はわかっているし、軽蔑されたくない。我儘だと思われなくない。でも何故こう思っているのかわかって欲しい。
これを自分で解決できないのは甘えだと言いますか?
私は甘えだとは思わない。誰にだって一定の期間、そうなることもある。どんな人にも逃げ込める場所って必要なんです。ただ、当事者になると、とても視野が狭くなることがあります。だから俯瞰してみます。まず相手の立場になってそう思う事を理解し、グッと引いて、こういう考え方もあるよ、と伝えます。そして何を伝えたのか、自分を俯瞰してみます。自分の事として感じ、人の事として感じてみる。
 
 私のお店であった実話をもとにお話しします。
二十二歳、独身の保育士さんがやってきました。社会人になって二年目です。仕事も覚えてきてやる気もあります。自宅に持ち帰る作業も多く、何度もリビングで寝落ちをしています。保育園とは、園児を飽きさせないように毎月イベントがあります。準備もあります。プールにも一緒に入ります。とても過酷な仕事の一つだと私は思っています。
彼女は三歳の時に両親が離婚し、二つ下の弟と共に父親の元で成長しました。父親も私の所に来ていて知り合いです。食事も洗濯も仕事も子育ても懸命にやってきたお父さんです。そのことを彼女もよくわかっていました。だから多少厳しくても、よく父親の言う事を聞いていました。
私は彼女の身体を触って、肉体疲労以外におかしな緊張があるな、と思っていました。
日曜日の昼間に整体院に来て、真っすぐ自宅に帰ると言います。飲み会にも行きたいけど、行かないと言います。
「どこに行くんだ、何時に帰るんだ、夕飯は食べるのかってうるさいし、機嫌が悪くなると家の空気が悪くなるから」諦めたようにつぶやきました。
父親の立場からしたらそう言うでしょう。目の離せない子供です。でも私からしたら二十歳を越えた人が言われることではない気がしました。母親が居れば間に入ってくれるでしょうが、彼女にはいません。彼氏が欲しいけど、父親がうるさいから無理、と言います。友達に話せば「そんなの無視すればいいじゃん」と言われていました。彼女には無視することはできません。懸命に育ててくれたことがわかっているから。
私が彼女の年の頃には親の心配をよそに、もっと遊んでいたと思います。でも家庭とは一軒一軒違うものです。私のケースを当てはめても意味がありません。それでも若い時にした方が良い事もあります。
「出会いの場には行った方がいいよ。飲み会の途中で帰ることになっても、行っておいで。もし終電を逃しちゃったとしても、お父さんが安心できるように連絡も入れて、安全は確保していますって伝えて、ごめんなさい次回は気を付けます、って言えればいいと思う。怒られるから行かないってするのは小学生までです。自分のやりたいことはやり通しな。自分勝手にって訳じゃなくて、心配かけないようにやり遂げるにはどうしたら良いか考えないと」
彼女は、そういうの考えるのがめんどくさい、と言いました。
私は自分が言ったことを彼女が直ぐにやるとは思っていません。それでも、やっていいんだよ、と言い続けました。やるかどうか、失敗した時にリカバーできたのか、それは彼女にしかできません。私が代わりにやることはできません。
なんとかかんとか飲み会に出かけてみたりするようになってきました。周りの友人も彼氏ができたり結婚したりと環境が変わってきたからです。そしてついに彼氏ができました。
「父親には恐ろしくてとても言えない」と言います。
別れてしまう可能性があるのなら、父親には紹介しないで良いと思う。別に、必ず紹介しなくちゃいけないというルールはない、と伝えました。
時々やって来るお父さんには「あんまり厳しくすると、三十歳になっても四十歳になっても家にいるようになるよ。仕事も責任もってやってるし、もう充分大人だよ」と伝えます。
親から見れば子供はいつまで経っても子供に見えます。でも他人から見たら先生だよ、と伝えました。お父さんも苦しかったと思いますよ。でも一人で育てて来た娘は立派に大人になりましたよと言いたかったんです。
彼女は二十六歳の時に念願の一人暮らしを始めました。父親が嫌いではないけれど、初めて親の目を離れて、自由な時間を持ちました。月に一度は実家にも顔を出します。縁を切って出て行ったのではなく、自立したんです。父親も観念し、見守るようになりました。さらに二年が経ち、部屋の更新を機に彼とも同棲を始めることにしました。父親にも紹介し、二人で暮らして一年が経ちました。同棲生活の楽しさを満喫し、結婚しなくてもいいや、なんて思っていました。そんな矢先に彼の弟の結婚式がやってきます。彼にも一緒に出席しようと誘われました。
「あたし、どの面下げて出席すればいいのか、わからない」
久しぶりに私のお店にきた彼女は、施術ベッドに横になり、つぶやきました。
私は、背中の張りはそのせいか、と思いました。
いけない事をしている訳ではない、友人として結婚式に参列したことはあっても親族席に座ったことはない、自分は親族なのかなんなのか。お祝いはどう包めばいいのか。彼に言っても、別に彼女でいいんじゃない? と返ってきた、本当にそれでいいの?
彼女は同棲という生活が気に入っていました。それはお互いに過干渉にならず、責任もない生活です。私はまず、客観的な意見を言いました。
「彼の弟の結婚式とは、弟のお嫁さんが主役の会です。お嫁さんの親族も来ています。お兄さんの隣に座っている女性はなんだろう、と思うでしょう。婚約者?同棲相手?彼女? お嫁さんも、お姉さんと呼んでいいのか、いつか親戚になる人なのか、別れてしまう相手なのか、どう接すればいいのかわからない相手、と思うでしょう。
同棲相手です、って出席の仕方がダメなわけじゃない。それで押し通したって悪くない。ただ、相手はあなたから距離を置くよ。それも承知でやるならそれはそれでいいと思う。
ただ、ここに来て、私に話したという事は、それでいいのかなって迷う自分が居たからでしょう?
あなたは相手の気持ちを想像できる人です。そんなに突っ張った人生も望んではいないと思うけど。
彼は優しい人だもの。彼女が同棲を楽しんでいればわざわざ結婚を言い出さないと思う。でももう一年一緒に暮らしてる。そしてあなたもこのままでいいのかなって思い始めている。
彼女と妻の違いはね、相手に何かあった時に一番に連絡が来るかどうかだと、私は思ってる。
彼が酷い交通事故にあったとして、彼女じゃ第一報はこない。両親に行っちゃうね。もし亡くなった場合、職場の荷物を片付けるのは両親だよ、彼女じゃない。それでいいと思っているかどうかだよ。あなたはそれでいいとは、思わないんじゃないかな。

しちゃいなよ、プロポーズ。
男からしなきゃいけないもんでもないし、別れる気もないでしょ?
そして席次表には、婚約者、って書いてもらって、お祝いは苗字を書かず名前だけで彼と同封で。
私があなただったら、そうしたいと思う」
そう伝えると彼女は、ゆっくりとうなずきました。

さてこの後どうなったでしょうか。
この日の帰り、みなとみらいで彼と彼女は待ち合わせをしていました。
彼は花束を抱えて待っていたそうです。その場でプロポーズされましたとさ。
何も考えなくてもこの日は来たのかもしれないけど、彼女にとっては必要な時間だったと思います。自分の気持ちに整理をつけ、納得し、自分を俯瞰して弟のお嫁さんの気持ちになってみる。
そして、施術だけでは取れない背中の張りは、緩むのでした。
さてこれはカウンセリングだったのでしょうか。心療内科に行って話して来ることだったでしょうか。彼女は一番近くにいる彼にも相談しています。それでも納得がいっていませんでした。
私は彼女の性格を把握し、状況を理解し、整理整頓をしたのだと思います。そうだよね~、わかる~、と言うだけではダメなんです。一年も一緒に暮らして結婚の話もできない二人なら別れろ、という物でもありません。
彼女の立場になって考える。同調とは違います。
彼女は彼からのプロポーズを一年待っていたと思います。でも、同棲、最高! なんて言ってしまっていては彼だって言えなかったと思いますよ。
同棲相手ではなく妻になる。これは意思です。腹をくくると緊張は解けます。無意識に入っていた力みは抜けます。
この場合、ただ揉み解していればいいのではないんです。そんなもの焼け石に水です。
自律神経とは感情とも密接に関わっていると思います。
施術時間としては一時間六千五百円(税込)で頂きました。施術後の話は別途一時間かかっています。料金的には二時間で六千五百円になります。
整体師って儲かる仕事ではないのですよ。私はそれでいいと思っています。高いと言われる筋合いも無いと思っています。