パーソンセンタードケア

 最初に、知っておいて欲しい事があります。それは認知症介護についてです。
今現在の介護の出来事を、ニュースで知ることが多いと思います。どんなイメージですか?
奇行を繰り返す相手をベッドに縛り付けている、介護者の疲弊、認知症の人が認知症の人を自宅で介護している。認知症にはなりたくないという声も多く聞きます。認知症になると暴言を吐き、暴力をふるい、徘徊し、介護されることを拒否する。私の認識でもそうでした。誰もが目をそむけたくなる現実だと思っていました。
ではなぜこんなことになっているのか。それは「脳の病気で人が変わってしまった」というイメージが先行してしまったからです。

●パーソン・センタード・ケア
1980年代末にイギリスの心理学者トム・キッドウッド教授により提唱されたもので、認知症の人を1人の人として尊重し、その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行うという、認知症ケアの考え方の一つです。
・どんな異常に見える認知症の人の行動にも、何らかの意味があり、理由がある。何もわからない人になったのではない。
・認知症の人と同じ立場に立てば、認知症ではない自分たちにも、同じ状況なら同じ行動をする可能性がある。
・記憶障害や様々な認知機能が低下しても、感情やプライドは豊かに残っている。
相手を理解し、同じ立場に立って考える。これは整体師としてもやるべきことです。そしてとても重要なことは、『その人が言うがままにするケアではなく、その人らしさ、個別性を尊重し生活を支えるケア』だという事。
整体師をしていればよくあることですが、「腰が痛い」と言われたとします。相手は腰を揉んで欲しいと思っています。でもその痛みの原因が便秘だとしたら? 私の場合、こうしました。
時期を考える。盆暮れ正月はどうしても食べ過ぎることが多いです。暴飲暴食で内臓に負担がかかり機能は低下していないか。わき腹から下行結腸に張りはないか。背部の筋肉の張りはどうか、触ります。腰を揉んだだけでは解決しない腰の痛みです。腰を揉まずにお腹を揉んで腰の痛みを止める。これが「その人が言うがままにケアするのでなく」です。話を聞いて、環境を想像して、考える。
認知症の人の心理的ニーズとして、①くつろぎ ②自分らしさ ③結びつき ④たずさわること ⑤共にあること、の五つがあげられています。本人が意識するしないに関わらず、心が求めている事です。これは認知症の人でなくても当てはまりませんか?
ほぐしてもほぐしても、またすぐに凝り固まる。本人でさえ理由はわかりません。自ら抜け出すことのできない深い霧の中で彷徨っています。「今この人に必要なことはなんだろう」と考えることが、無意識に入った力を抜かせる助けになります。
私も含め、全ての人がこの五つを求めています。
①くつろぎ
 優しさ・親密さ・苦痛と悲しみを和らげること・不安を取り除くこと・他人と親密になることから生れる安心の感情
②自分らしさ
 自分が他の誰とも違うことを知り、過去から繋がって、今存在しているという感覚をもつこと
③結びつき
 誰かほかの人との絆や結びつき、特定の物や行為への愛着やこだわり
④たずさわること
 自らの能力を使って進んで何かを行おうとすること
⑤共にあること
 社会から排除されず、人や社会とのつながりの中で生きていることを実感すること
この五つの内どれか一つでも欠けると不安感が高まり、交感神経が休まらず、ほぐしても直ぐ筋肉は硬くなるように思います。どれが欠けているかを知るために、介護の方では『観察』をするそうです。認知症の本人から言葉で聞き出すことは難しく、何時間もかけて観察し、ケア方法を考えています。整体院に来る人にはまず、実際に聞いてみてください。話してくれないこともあると思います。整体院だって1回ですべて知る事なんてできないんです。監禁して24時間観察することはできません。だから会話をするんです。
認知症を持つ人の場合は、『脳の障害』・『健康状態』・『生活歴』・『性格』・『環境』の五つの要素を踏まえて理解する手がかりとしています。
整体院では『脳の障害』を抜かした四つを手がかりとします。
①健康状態
 ここで言う健康状態とは、健康診断の結果と思ってください。基準値に入っていない項目を整体の手技で改善させるわけではありません。例えば血圧が百三十を超えているとします。たいてい血圧を下げる薬を処方されています。首の筋肉が固くなっていて、頭痛が出ている人はたいてい血圧が高い。それを薬で下げられてしまっては虚血になる可能性がある。首の筋肉を柔らかくすることは急務です。年配者の七割は血圧を下げる薬を飲んでいます。でも年齢プラス九十では異常ではない、薬で下げる必要はないという考え方もあります。
コレステロール値が高い人には内臓の負担を減らすために、時折ファスティングをすることをお勧めしています。
②生活歴
 職業・習慣やこだわり・好きなことや得意なこと・嫌なことや苦手なこと・暮らしている地域など比較的聞きやすい内容です。ガーデニングが好きな人は腰が痛い事が多いです。それは土や鉢など重たいものを持ち上げるからです。作業中は痛みが出ないのですが翌朝起きるときに、いてて、となります。それは疲労なので通常の揉み解しで充分復活します。これがガーデニングをしていたと知らないと、骨に異常はないか、となってレントゲンを撮ることになります。整形外科はこれが多いと思います。
③性格
 社交的なのか人づきあいが苦手なのか、他人の世話になりたくないのか人に頼りたいのか、気が短いのか長いのか。運動をするのが嫌いな人に筋トレを進めてもやりません。また、筋トレばかりしている人に休息を進めても休みません。マッサージ機ではなく人の手でほぐして欲しいと思っている人もいます。
聞く耳を持っている人は固まった筋肉がほぐれやすいと思ったことはありませんか? その人にはどんどん提案をしてください。反対に何をしてもほぐれてこない頑固な筋肉に会ったことはありませんか? その人はなぜ頑固なのか、理由がわかりますか? 私はわかりますよ。
④環境
 暑さ寒さの物理的環境や家族構成・住環境などその人を取り巻くすべてにあたります。職場でどんな関係性を作っているのか、親子間に軋轢はないか。ストレスを産む環境にいるのか、それを整体師に言えるかどうか。ここがとても大事です。なぜなら環境は変更が可能だからです。性格は変更不可能です。

相手を中心において考える。マニュアルなんてないです。一人ひとり生き方も人生も違うんです。認知症の人も認知症じゃない人も一緒です。医者は命を最優先に考えると言います。整体師はその人の人生を最優先に考えるべきです。
介護の視点で考えられた『パーソン・センタード・ケア』を、整体院でも取り入れなければただのマッサージ機になります。