浮世絵を描いていたり、海賊だったり

そしてママは4時半に起きることは辞めて
パパの朝ごはんも作らなくなったんだけど
結局6時前には起きて、夕飯の仕込みや
洗濯などなどをしている。

「これは自分のために
やっていることなので」
とママは鼻息を強く吐く。

さてママ。
話を聞こうか。

「さすが、なーちゃん。
 パパはこの展開をおかしいとも思わないからね」

ママはコーヒーを入れて、コタツに入ってきた。

「ママのお店のそばに、開運カフェって占いのお店ができたでしょ?
 店内には沢山の風水の仕掛けがしてあって、
 気分転換も兼ねてお昼ご飯を食べに行ったの。
 パパに合わせすぎて、お店の売り上げも落ちちゃったし
 まともに仕事もできてないなぁって反省もあったし。
 今後、どうしようかな、って思って。
 いっそパパと別れて仕事に邁進するか、とかさ」

そうだよね、ってぼくは色々思い返した。

始まりは、ぼくを拾ったことだったんだろう、と思う。
せっかくママは自分のお店を持つ、という夢をかなえたところだったのに
ぼくが来て、パパが来て、地震が来て、ばぁちゃんが来て。
パパが転職を繰り返して。
あっという間に7年以上の月日が、過ぎていた。

ママを見上げる。

「いいのよ。嫌々やってきたわけじゃないの。
 子離れされた親の気持ちってこんな感じかな、って。
 さて、ここからどうしようかな、って思ったの。
 パパが嫌いになった、とかじゃなくて
 パパも自分の家を持ったし、仕事も持ったし
 友達もできたし、もうあたしが居なくてもいいんじゃないかな、って。
 で、うんうん、唸ってたの、そのカフェで」

「三輪先生、タロット受けてみませんか?」
食事も終わり、目を瞑って腕を組んでいたところに声をかけられた。
勧められた手の先に、タロットカードを切る男性が座っている。

「・・・見てもらおっかな」

どうぞどうぞ、と引かれた椅子に腰を掛けた。

「えーと、今後の仕事の方向性について、みてもらえますか」
気がかりはそこではないと分かっていたのに、そう聞いている。

男性は何度かカードをめくり、
そのままでいいよ
とか
来年は忙しくなるね
とか
つぶやいて
「あなたの後ろの人、面白いね」
と言った。

後ろの人?
さりげなく後ろを伺う。
特に変わったことはない。
女性が二人、お茶を飲みながら話をしている。

「ちがうちがう、あなたの、後ろの人」

「・・・それは、守護霊とか背後霊とか、そのたぐいの?」

男性はニコニコしながらうなずく。

「ふつう、商売している人には西の人が付くことが多いんだけど。
 あなた、出身は?東京?
 ふーん。
 東の人が付いてるんだよね。
 で、なんか、筆みたいなので、シューって絵を描いてる。
 浮世絵?
 でも、それだけじゃないんだよな。
 色んなことしてるの。
 だから、あなたも色んな事、すればいいよ。
 できるよ。そういう人付いてるから」

ちゃっちゃとカードを切っている。
もはやタロットカードが示している話ではない。

「ふーん。
 で、旦那さん?
 この人、船に居た人ね。
 海賊みたいなことしてたんだけど、
 だんだん警察みたいな取り締まる側になって行ったの」

夫の話など、一言も出ていないのに。
つい、口から言葉がこぼれる。

「もうさー、この人色々やってあげても
 なんにもわかってくれないの。
 ちょっと疲れたなー、って思って」

男性はカードを切りながら、あはは、と笑った。

「感謝の、か、の字もないでしょ。
 だって、やって欲しいなんて、この人思ってないもん。
 あなたが、ただ居てくれるだけでいい、って。
 なーんにもしなくても、あなたが居るだけでいいって思ってるの」

!!!
なん、と。

私はコントの様に仰け反った。

「わたしは、なにも、しなくて、よかった、と?」

「そうだよ。
 やって欲しいと思ってないから。
 ふーん、って見てるだけ。
 だから、なにもしなくても、怒ったりしないでしょ?」

た、確かに。

「だから、あなたは気を使って、先回りして、
 やってあげなくてもいいんだよ。
 気が付いちゃうからね、やっちゃうだろうけど。
 でもそれは、やりたい時だけでいいよ。
 旦那さん、別に怒ったりしないから。
 困ったとしても、困ったときに助けてあげればいいじゃない。
 その方が感謝されるよ」

「・・・た、確かに、あれがプロポーズの言葉だとすれば
 納得がいく。
 何もしなくていいです、ずっと一緒に居てください、って」

「ほらね」

「でもまさかほんとに何もしないわけにいかないじゃないですか。
 だって、何もできないんだもの」

男性は相変わらず、カードを切っている。

「やってあげても、便利だな、くらいにしか思わないよ。
 望んでないから。
 この人、素直だね。
 そして、頑固だから。
 自分を良く見せよう、とかないの。
 あなたが、そこに居るだけで、満足なんだもん。
 それ以上、なにも望んでないんだよ」

ぼくも、がてんがいった。
そうなんだよね、パパってそういう感じ。
その男の人、すごいね。

ママは、ねー、と言ってぼくの頭を撫でる。

「まったくさぁ。やらないで良いなら、そう言えばいいじゃない。
 便利だったことは確かでしょうし。
 それにしても、海賊かぁ。
 どおりで、昨日の事は覚えてない、明日の事はわからない、
 って感じで生きてるなと思った。
 計画性はないんだけど、土壇場強いしね。
 まぁ、いいや。
 気が楽になった」

で、ママ。
ぼくはママが居なくて寂しかったんだけど。
ぼくのこと、忘れてない?

「あたしだって、なーちゃんに会えなくて寂しかったわよ。
 今度、家出するときは、なーちゃんも一緒に行こ♪」

そう?
それならいいけど。

ぼくには誰が付いているのか、気になったけど
ばぁちゃんだと良いな、って思った。


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