「じゃぁ、あたしたちは銀行に貯金しに行ってくるから。
それまで家、好きに使ってていいよ」
とママはばぁちゃんに耳打ちする。
「ずるいずるい。みんな帰ったら合流するから
迎えに来て」
とばぁちゃんはママに耳打ちを返す。
ママは駅まで人を迎えに行き
連れて戻って
お茶を出し終えたところだった。
ママが言う銀行はパチンコのことだ。
ばぁちゃんがパチンコを選んだのもわかるなぁ。
時間を潰すには持って来いだ。
途中で切り上げることができるもん。
人と会ってたりしたら、そうはいかないし。
お金はかかるけど、かからないときもあるし。
ってママが昨日のお茶会で言ってた。
昨日はママのお兄さん家族がやってきて
一昨日はママのお姉さん家族がやってきた。
そして今日はばぁちゃんの妹と
ばぁちゃんの従妹が来ている。
今日はママもパパも家にいる日だったのに
ママはパパと一緒に家を明け渡した。
「私たちがいてはできない話もあるでしょうから」
って言って。
そこでぼくの出番だ。
ママが言っていた通り、
ここに来た人たちには、ぼくの声は聞こえていない。
「わぁ、ねこちゃん、かわいい~
ねこがいるから寂しくないわねぇ」
とか
「ペットセラピーね~」
とか言ってた。
ぼくとばぁちゃんは目を合わせて
くすり、と笑う。
で、ぼくの感想としては
みんな、自分の話ばっかりだなぁ、だった。
案外元気そうでよかった
とか、
娘さんに見てもらえて、幸せね~
とか、当たり障りのない話をして
誰もばぁちゃんの本音を聞き出せない。
ばぁちゃんも言う気がなさそうだ。
そのうち自分たちの近況で持ち切りになって
ばぁちゃんは聞き役になった。
パパとママとぼくといるときは
ばぁちゃんはよく喋るのに。
と、言うことを夜のお茶会で
ママに伝えると
「やっぱりそうか」
と少し寂しそうな顔をした。
ママとパパと合流する前に
ばぁちゃんにも聞いたんだ。
そしたら
「このみも疲れたでしょ」
って言って、ばぁちゃんはぼくを膝に乗せた。
「みんな悪気はないのよ。
わざわざここまで来てくれたことに
感謝はしてる。
ばぁちゃんの我がままでここにいるんだし」
ばぁちゃんはゆっくり目を閉じる。
「社会生活を閉じるって、なかなか難しいものね。
ばぁちゃん、今度生まれ変わったら猫になろう。
そしてママに拾われよう」
って言ってたよ、ってママに伝えると
ママは、断る!って叫んだ。