ママは鯉ちゃんの事を怒っているのかな、と思っていたけど
朝ぼくが1階に降りると大きな段ボールに
オセロの箱を置いているところだった。
ママ、何してるの?
振り返ったママは寂しそうに微笑む。
「鯉ちゃん、息も絶え絶えなんだけど
うんちが出せればまだ何とかなるかな、と思って。
暗くて静かな場所に居れば、それできるかも。
でもブクブクなしで。
酸欠で、眠るように逝くかもしれない。
どっちつかずな方法だけど」
苦渋の選択、と言ってママは目を閉じる。
なーちゃんは近づかないように、と釘を刺されたけど
ぼくはちょっと覗き込んだ。
本当に、辛うじて息をしている状態だった。
あんなに横暴だった鯉ちゃんが、とぼくはひるんでしまう。
もう、頑張って、と言う事もできない。
できるだけ、安らかに
そう思ってしまうのはいけないこと?とママを見上げる。
「あたしだってそう思うよ。
ここに越してきてから付き合いだし。
我儘放題だったけど、嫌いじゃなかったよ。
最後は、始めて入った水槽で、静かに、って思ってる」
ママはグッと目に力を込めた。