雨が降っているみたい。
ぼくは雨を見た事しかなくて
ずぶ濡れ、とかなったことがない。
きっと、ママがぼくをお風呂に入れるときに
似ているんじゃないかな。
と、いうことは
結構嫌な感じ、なんだろう。
「しとしと、って言うのよ、こういうの。
ふわぁぁって濡れて、水の中で生きるって
こういう感じかな、って思うの。
別に苦しくもなんともなくてさ」
ママは庭を見やる。
今日はバスで行かなきゃな。
それがめんどくさい。
人間って。
とブツブツ言っている。
あ、ジャック、と呟いた。
ん?窓に白黒が映る。
ママがブラックジャックと名付けた
白と黒の猫はさらに短くジャック、と呼ばれるようになった。
雨の中やってきたのに、ずぶ濡れじゃない。
ぼくがお風呂から出た時と大違いだった。
しっとりとした毛は、艶のようにも見え
あ、ジャック、若いんだ、って思ったくらい。
ぼくらを見上げるその顔は
水の中を生きる猫、だった。
ジッとぼくを見つめている。
残念だけど、ぼくは水の中を生きない。
ぼくは抱えてくれてたママの腕から
するっと降りた。