「ちょっと、なーちゃん。困るんですけど」
ママが腰に手を当てて、ぼくを見下ろす。
はい。なんでしょう?
「おしっこ」
はっ。
それは。
ぼくも猫なので、勘弁してください。
「それはわかっているけど
トイレ、あるでしょ?
なんで納戸でするのさ」
えー
それはー
色々ありましてー
「ここ賃貸なの。
ペット可ってなってても、限度があるの。
なんでトイレでしないのよ。
あんぽんたん」
ママはぼくのお腹をつまむ。
「でもさー、そんなことで怒りたくないのよね。
自分の家だったら、まぁ注意はするけど
ここまで気を使わなくてもいい気がするし」
ママは毎週お休みにぼくのおしっこ探しをする。
バケツに水を汲んで、タオルで吸い取って
消臭剤をスプレーする。
「ここの家賃を払い続けることが、いつまでできるのか、とか。
ここにいつまで居るのだろうか、とか。
ここ立て替えますよって言われて、出るための貯金は作れているのか、とか。
いくらなーちゃんが孝行息子でも、ママとパパの稼ぎはそんなに良くないんだし。
さて、そろそろまじめに考えるとするか」
と、言うとママは大きく息を吸い込んだ。
あ。
また何かを決断しようとしてる。
それはぼくにも関係ある事なのかな、って思いながら
段ボールに移動した。