ひゅー、ひゅー、と音がする。
トラちゃんの音だ。
「お。あたしがいない間に死んでなくてよかった」
ママは、にっと笑うとレースのカーテンを開けた。
そこにはママが居るのを確かめるように
こちらを向いたトラちゃんがいた。
「この前ね、中学の時の友達と30年ぶりに会ったの。
トラちゃんの話をしたら、エイズじゃないか、って」
ママは寂しそうに笑う。
「だとしても、こうして生きて私の帰りを待っていてくれるのだよ。
カッコイイじゃないか。
息をするのも辛いとしても
息をしなきゃ生きていけない。
生きてるだけで頑張っている。
あたしはトラちゃんを死にぞこない扱いしないぜ」
ママはそう言うと、くちゃくちゃご飯を
ウッドデッキに出した。
トラちゃんはヨボヨボだけど
ママの帰りを心配する余裕をみせる。
ぼくは、そうだね、ってうなずく。
ぼくがもし、息も絶え絶えになったとしても
パパとママの帰りを心配して
死ぬその日まで普通に生きるよ。