生きている内に楽しもう

「これで夕飯代を稼ぎます」
ばん、とテーブルに五千円札をたたき置いた。

三十分だけ?
とか
三千円だけ?
とか
こそこそパパと話をした後、
ママは五千円札を手のひらで押さえながら、ばぁちゃんに言った。

キョトンとしたばぁちゃんに
「パチンコ」
と一言付け加えて。

ばぁちゃんは、
えー!と大きくのけぞり
おなかを抱えて笑い出した。

テーブルに乗り出しているママと
隣でニコニコしているパパ。
そしてすました顔のぼく。

ばぁちゃんは

あんたたちは、バカね
大ばかよ

と言って涙をこぼして、笑っていた。

ばぁちゃんは天井を仰ぎ、
よしっ、と口を結ぶ。

よいしょ、よいしょ、と
1人でなんとか着替えを済まし
パパとママに五千円を握らせて
マスクを付け
「行くわ」
と立ち上がった。

ばぁちゃんの目が、キラキラと輝いている。

パパは車を玄関前に回し
ママに支えられながらばぁちゃんは助手席に乗り込んだ。

ぼくはその様子を出窓から見ている。

ふぅん。
ガンって病気だけどそんなに悪いもんじゃないな、なんて思いながら。

ずいぶん夜遅くになって、三人は帰ってきた。
夕飯も食べてきたらしい。
みんな、ちょっと興奮した感じだった。
ばぁちゃんは笑いながら布団にもぐりこんだと思ったら
すぐにいびきをかき始めた。

パパはリビングに布団を引き、横になっている。
ママはキッチンで明日の朝食の準備だ。

ねぇねぇ、どうだったの?
とテーブルに待機する。
ここ最近流行っている、ママとぼくの秘密のお茶会。
ママはお茶を入れて椅子に座った。

「いやぁもうなんだか。
 神がかってた。
 あり得る?こんなこと」

ちょっと、ぼくにもわかるように。

「ごめんごめん。
 本牧方面に行ったんだ。
 ほら、パパがよく釣りに行くほうね。
 車も止めれるし、って入ったパチンコ屋さん、ガラガラなの。
 でもばぁちゃんあんまり混んでるところはなんかな、って思ってたから
 ちょうどいい、ってそのパチンコ屋さんに決めたのよ。
 で、パパもママもパチンコよくわからないから
 オロオロしちゃったんだけど
 ばぁちゃんが色々指導してくれてさ。
 で、ばぁちゃん、速攻当たって。
 パパもママも見様見まねでやってみるんだけど
 球があちこち飛んじゃうし、あっという間にお金は無くなるし
 ひー
 って言ってたら
 ばぁちゃんが、ヨロヨロしながらカップに球詰めて来て
 あんたたち、大丈夫~?って応援に回ってさ。
 で、あたしも当たって。
 で、パパの方にもばぁちゃん応援に行って
 で、パパも当たって。
 三人で箱積んじゃって。
 ガラガラのパチンコ屋で。
 三人で九万円とかなっちゃって。
 ばぁちゃんあたしの腕に捕まりながら
 大笑いしたのよ、外で。
 こんなこと、ない、って。
 三人で来て、三人ともでるなんて、って。
 それで、よし、焼き肉だ!ってなってさ。」

で、帰りが遅くなったわけ?
とぼくが聞くと
ママはぼくの頭をなでた。

「でさ、焼き肉を、ばーって頼んで
 よっしゃ!食べるぜ!ってなったらさ。
 ばぁちゃん、食べれないの。一口とか、二口とかで。
 あたしもパパも、
 あぁ、そうだよね、そうだったよね、って。
 ばぁちゃんが末期ガンだって忘れるくらい
 普通に三人で遊んでたんだな。
 ばぁちゃんも忘れてた。
 自分で注文したんだもん、肉。
 いざ、食べるときになって
 あ、入らない、って。

 なんだかさーもー
 綱渡りしてる感じ」

でも渡って見せるぜ、と言うと
ママはぼくの顔を、わしわし、と撫でまわした。

ぼくは、パチンコよりも釣りに行ってくれると嬉しいんだけど
まぁ、譲ってあげるよ、と
ママの手を柔らかく噛んだ。


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