次の世代へ

「もう私が持っていてもただ保有しているだけで
 生かしていなかった事に気が付いたのよ」

ママはうんうんと頷いている。

いったい何のこと?

ママはいつもうなずいたり頭を振ったり
クルクル色んな事をしている。
ぼくにはさっぱりわからない。

「楽器。中学生の時に吹奏楽部に入って
 トランペットを買ってもらったの。
 高校でも使っていたんだけど
 そのまま止まってた。
 いつか社会人ブラスに入るかなと思っていたけど
 練習時間ってあたしには取れないなぁって。
 終わってたんだよね。自分の中で。
 もう次の世代に譲る時が来た。
 いやいや遅すぎるくらいなんだけど」

「ピカピカに磨いて売りに出す。
 誰がこれを手に取るか、楽しみじゃない?
 また新たにこの楽器が息を吹き返すんだ」

「懐かしいなぁって思うよ。
 だけどそれ以上にもう思い出は増えない。
 次の人が新しい思い出をこの楽器にくれるんじゃないかと思って」

ママはゆっくりと目を閉じた。

ひとつずつ手放していく。
手放しながら次の人へ祈る。
これで楽しい思い出沢山作ってね、って。

祈りはいつか届くんじゃないかな。
ぼくはトランペットを吹くことはできないけど
誰かがママの楽器で演奏していたら
楽しいなって思う。

いつかどこかでまた会えると良いねってママに言うと、
ママは、うん、ってうなずいた。


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