「もうね、大岡川の桜が咲き始めたんだよ」
ママはウキウキしている。
今日は自転車で遠回りをして帰ってきたらしい。
「まだ三分咲きだから、写真に撮ってはないんだけど。
咲き始めると、みんな写真撮るよね。
それだけ待ち焦がれていたってことだもんね」
ぼくは桜を見たことがない。
噂では薄桃色の小さな花が
木いっぱいに咲くらしい。
「なーちゃんも見に行く?」
ママはぼくを覗き込んだ。
いいよ。
人がいっぱい居るところなんて嫌いだもん。
「そう言うと思った。
なので庭に山桜を植えてあります。
五年経ったから、今年あたりは咲くかもよ」
うふふ、とママは笑っている。
え?
五年前から計画してたの?
うん、とママは頷いた。
「庭で一緒に見れたら最高じゃない。
そのためのウッドデッキである」
ママは威張って言った。
でも山桜だから五月ごろだろうけどね。
でも寒くないお花見だから。
って目をキラリとさせる。
ほんとかな。
あと二つカレンダーが変わるころか。
ぼくはまだ想像がつかなかった。