本棚の上から

「あーあ
 できるだけ自分でやろうと思ったのに
 結局迷惑をかけてしまったわ」
とばぁちゃんは言って
トイレに行くときはママの助けを借ることに決めた。

それでも
「立ち上がるところだけ、お願い。
 立てればまだ歩けるから」
と、和室からトイレまで
自分で歩く。

ぼくは夜のお茶会でママに聞いた。

もっと手伝ってあげたほうが、いいのかな、って。

「相手からの依頼もないのに
 勝手に手を出すのは
 大きなお世話、になると思うんだよね。
 それをして嬉しいのは
 手を出した人だけなんだよ。
 やってあげた、喜ぶはず、って。
 相手が自分でやろうとしてるのに
 横取りしちゃうみたいで
 あたしは、嫌なんだよね。
 だって、頑張ってるじゃない。
 無理してるんなら、手伝うよ。
 頑張っているなら、応援するのみ」

ママはつんつんと、ぼくの額を突っつく。

「自分の満足のために
 相手の、選択の自由、を奪ってはいけない。
 それが、たとえどんなに
 やってあげたいと思っても、だ。

 だってさ、ばぁちゃん、キラキラしてるでしょ。
 ゼイゼイいいながら、キラキラしてるじゃん。
 生きるって、こういうことなんだよ。

 生きることも、死ぬことも
 代わってあげることはできない。
 自分でやるしかない。
 周りの人は応援しかできないんだって」

ばぁちゃんは肺がんで
ママは携帯用酸素ボンベを
近所の薬局6件から買いあさって
どこの店が在庫切れで
どこの店が何曜日入荷かを
知っている。
ばぁちゃんが自力で動いて
息が上がった時に
ママは、さっと酸素をばぁちゃんの口に充てる。

これが、手伝うということなんだよ
ってぼくを見て、にやりと笑った。

応援団がグラウンドにしゃしゃり出て
バット振ったらおかしいでしょ?って。

ぼくだって、酸素を買いに走ることはできないけど
在庫の確認と
本棚からの見守りをしている。

布団に乗っていると
「もうばぁちゃん、このみが乗っていると
 寝返りができなくなっちゃって」
って申し訳ない顔をされて
本棚に上がることにしたんだ。

「それでいいと思うよ。
 あんたはあんたで
 よく手伝ってる。
 あんたが本棚から見守っているだけで
 ばぁちゃんはよく眠れるんだから。
 睡眠薬より効果がある。
 眠るのを手伝う、なんてなかなかできない事よ。

 お互い、応援団員として
 頑張ろうじゃないか」
ってママは手を出した。

ぼくは、おぅ!って鼻をくっつける。


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