お昼になってママがゼイゼイ言いながら帰ってきた。
今日はずいぶん早いね。
「こんな日中に自電車で走り回るなんて高校生ぶりだよ。
死ぬかと思ったけど、真夏を肌で感じたわ」
なんて顔を真っ赤にしてカルピスソーダをゴクゴク飲んでる。
そうか。
今日からだっけ。
「そうよ。お店の工事が始まったの。
カギを渡して5丁目のプランターに水あげて
帰ってきたらもう便器が外にでてた」
ほれ、とぼくに写真を見せる。
なんか、ずいぶん小っちゃいんだね。
外で見るから尚更かも。
「ほんと。この便器に助けられた人は沢山いるんだよね。
35年現役で、故障もせず、素晴らしい便器であった」
ママは、南無~、と手を合わせている。
「午前中出張に出て、帰りに忘れ物取りにお店に寄ったらさ、」
と写真をめくった。
「階段からの入り口はこんなになってて、」
「もう全部空っぽ」
へぇ~。
壁の一枚向こう側はもうコンクリートなんだね。
ね、とママもうなずく。
「そして店内はガッチリ養生」
わぁ。すごい。お店とは思えない。
「ほんと。
昨日全部片づけて奥に寄せたんだけど
机も靴箱も全部ブルーシートの中。
リホームってすごいね。
ずっと見てたいけど邪魔になるから大人しく
お外で仕事します」
トイレも無いし、とママは笑った。
そうだね。
トイレの無い部屋に長く居れないしね、と
トイレを2つ持つぼくが言うのもなんだけど。
いやいや、あなたはトイレ以外でもするじゃない、と
ママはぼくのおでこを突っついた。