「さてさて。どうするかな」
ママは腕を組んで、うーん、と言っている。
いつもの深夜のお茶会。
今日はぼくも椅子に座った。
「ばぁちゃんに、会いたい人とかいないの?って聞いたのよ。
そしたらさ」
ママは口をぎゅうと結んでぼくを見た。
「別にいないな~」
「でも母に会いたいと思っている人はいるでしょ」
「会いたいなら会ってあげてもいいけどー。
話したいこともなにも無いし。
もう体力ないから疲れるのよ。
一通りの挨拶は、入院した時に済ませたと思ってるんだけど」
「あたしもそう思うけど。
そう思わない人もいるじゃん?」
「うーん。
こっちから呼んで来てもらっても意味がないのよ。
でも動けなくなってから来ても遅いの。
話ができなくなってから来ても遅いの。
死んでから来ても遅いのよ」
ばぁちゃんは、あはは、と笑って言ったらしい。
ぼくはちょっと切なくなった。
死んでから来ても遅い。
ママはぼくの耳をつまんで軽く引っ張る。
「まぁ、ばぁちゃんの言いたいことはわかる。
呼び出してまで伝えたいことはない、って。
聞く気もない人に言うことはない、ってさ。
でもばぁちゃんの話を
聞いておかなきゃいけない人もいると
あたしは思うよ。
でも、あたしが、
聞いてやって!
とか
言ってやって!
とか言うのもおかしいの。
それぞれ事情も都合も
気持ちの整理もあるだろうし。
あんまり突っ込むとまた
あんたは生意気だ
って始まるからな。
でもそんなこと言ってる間に
ばぁちゃん死んじゃうからね。
様子見ながら、やってみるか」
でもさ、ママ、
またお店に行けなくなるんじゃない?
ぼくも協力するよ。
どうすればいい?
「お。さすがうちの子。
じゃ、必要最低限で声かけるけど
パパとママとばぁちゃん以外に
あんたと話ができる人はいないと思うから
猫のふりして話、聞いててよ。
あたしもパパも、その場にいないようにするから」
やってみようぜ、と額をつんつんするママに
えー!
ぼくって誰とでも話ができるわけじゃないの!?
って叫んだ。