「いやほら、ママのお客さんから電話が来て
うちの下で子猫が鳴いてるから、あんた、見てきて
って言うからさ、見に行ったら
ママ猫はいないし
目は開いてないし
カラスに狙われちゃってるし
この子だけしか、カラスから奪ってこれなくて」
ママはマゴマゴと説明をする。
「でも鳴き声は大きいし
ミルクと温度だけは、なんとかできるかもって」
ママはお店の近所のドン・キホーテに走って
子猫用ミルクと哺乳瓶と小さい貼らないカイロを、買ってきたらしい。
「だって、こんなよ。あたしの手のひらよりも小さい」
「こんなじゃさ、外に置いておけないじゃない」
「うねうね、動くし」
「こうでしょ?」
「こうでしょ?」
「目が離せないから、自転車に乗っけて帰ってこれないじゃない。
だからパパに迎えに来てもらったのよ」
あ、鳴いてる。
ミルクミルク
と言うとママは急いでキッチンに向かう。
哺乳瓶を熱湯消毒し
ミルクの温度を人肌にして持ってくる。
大変大変、と言いながら、ママは楽しそうだ。
「小っちゃいね~
かわいい~
ちびっこいから、ちーちゃんにしよう」
パパはニコニコしてデレデレしている。
ぼくは、なんだか独り取り残されたような気がした。
ママ、ぼくも、ごはん。
「なーちゃんのカリカリは、まだ入っています」
ママはちーちゃんから目を離さず、答えた。
ぼくはそっと、その場を離れた。
階段に向かってもパパもママも、ぼくを引き留めない。
いつもなら
なーちゃん、どこいくの~?
って聞いてくるのに。
振り向いても二人はこっちを見ていなかった。