「いやいやなんと。有り難い物を頂いてしまった」
ママはうやうやしく鞄から何かを取り出している。
なんだろ。お菓子かな。
ブンブンと首を振るとビニール袋から出してぼくに見せる。
「乾燥した海鮮汁。
今あんまりスーパー行けないからね。
買いだめするのも気が引けるし、
有る物を使って行こうって感じの夕飯になってるんだけど
こういうものは有り難い。
急いで使わなくても良いし」
そうなの?
ぼくは冷蔵庫の掃除をしているのかと思ってた。
野菜の皮を煮たりして、どうしたのかと思ってたよ。
「野菜の出汁をとって見てたのよ。
あれはなかなか良かった。
玉ねぎの皮って侮れないわね」
ママはいやぁ時間があるって楽しい、と笑っている。
「非常事態は刻々と迫っている気がするし
それでも電気も水も来てるんだから
気は楽な方だよね。
あたしは今の感じ、嫌いじゃないけど。
一人で黙々と作業してるの好きだし。
おかげで色々はかどっちゃって」
おほほほほほ、と声を出して笑っている。
なんだよ、もう。
非常事態って笑っていいの?
「良いと思うけど。
そりゃ志村けんが死んじゃったり
悲しいと思ってるよ。
でも鬱々とするよりは目の前の事を
コツコツとやった方が良いと思う。
それが結果として多くの人を助けることに繋がるんだよ。
バタフライエフェクトとか風が吹けば桶屋が儲かるとか言うじゃん」
なにそれ。よくわからない。
ぼくは手ぶり身振りで喋るママの手を封じる。
あぁんもう、なーちゃんは想像力がないなぁ
とママは肩をすくめた。