キャンプファイヤー

「キャンプファイヤー」
ママが小声で言った。

ばぁちゃんは和室の部屋で、いびきをかいている。
ぼくは玄関に出かけようとしていたところを止め、
リビングに戻った。
パパとママが布団の上に胡坐をかき、
ぼくの到着を待っている。

キャンプファイヤー、
とはママがよく使う隠語で
会議をするときの招集だった。

つまりは、集まれ、ってこと。

「君たち、ばぁちゃんの唯一の趣味を知っているか?」
ママがぼくとパパに尋ねる。
ぼくとパパは、ぶんぶん、と顔を振った。

「パチンコだよ」

ぼくとパパは、
えぇ!あのばぁちゃんが!
とのけぞった。

「別にギャンブル依存、というわけではない。
 じぃちゃんの相手をするのに疲れた時に
 気晴らしに行ってたんだ。
 それはもう20年近くなる。
 ほら、じぃちゃん、躁鬱じゃん?」

ぼくはじぃちゃんに会ったことがない。
パパは、うーん、と唸った。

躁鬱とは病気の一種らしく
寝てれば治るものでもなく
手術をすれば治るものでもなく
突然怒り出したと思ったら
次の日には忘れていたり
相手が言ったことも
自分が言ったことも
忘れてしまったり
するらしい。

「離婚になってもおかしくなかったのに
 ばぁちゃんは自分の気持ちに折り合いを付けるために
 パチンコを選んだ。
 何も考えたくないときには
 最適だ、って言ってね。
 じぃちゃんは病気なんだ、って思っても
 腹が立つときもある。
 それを鎮めるのに、ちょうど良かったんだ。
 愚痴をこぼす人じゃないからね。
 誰かに会って、ランチして、とか
 それは選ばなかった。
 聞いたほうも困るだろうってさ。

 そのうち面白さも引き際も覚えた。
 趣味として成り立っていたと思う。

 あたしはさ、今、行けばいい、と思うんだ。
 楽しむためだけに」

ぼくもパパも、うーん、と唸った。

「釣り、楽しそうだったよね」
パパがポツリとつぶやいた。

でも、ばぁちゃん、病気じゃないの?
と、ぼくはママを見上げた。

「治そうとしてる病気じゃないんだ。
 それと一緒に最後まで生きる、って。
 じゃぁ別に禁止事項なんてないじゃない。

 明日はあたしも休みだし、ちょっと誘ってみようと思う。

 パパは無職だし、あたしも弱小個人経営整体師。
 無謀なことを言っているようだけど
 もう、こんな時間は、わずかなんじゃないかと思ってる。
 ばぁちゃんと一緒に遊べる時間なんて、そんなに残ってない。

 今、パパが就職活動に必死になるより
 今、あたしがお店の仕事に必死になるより
 今しかできないことがある、と思う。
 なーちゃんはお留守番になることも増えると思う。

 どう?」

ぼくとパパは両手を上げて
賛成
と言った。


猫との暮らしランキング 

関連記事

  1. 歯磨きの仕方

  2. ぼくがママを独り占めするよ

  3. 北投石をゲットする

  4. パパとばぁちゃんの夏休み

  5. だれ?その4

  6. 春はすぐそこまで来ている

最近の投稿

アーカイブ

LINEスタンプ販売中!


LINEスタンプ(リンク)


LINEスタンプ(リンク)