こ、この香しい匂いは。
もしや。
ママが網戸を開けて、入ってくる。
手にはビニール袋が下げられていた。
「ほい。
ご希望の品」
おぉう。
これは。
キャットミント!!
どこまでも!
キャットミント!
「なにがそんなに良いんだろうね。
猫草みたいにかじったりしないのに。
くんくんくんくん、匂いだけ嗅いで。
いっそ、まみれてみる?」
ママはそう言うと段ボールを組み立てて
ビニール袋を逆さまに振った。
きゃぁ!
入る入る!
わしわし
くんくん
すごく良いです!
「なーちゃんは、またたびよりキャットミントなんだよね。
なんで?」
あたしも入ろうかな、そこ。
ってママは顔を近づける。
ダメダメ。
これ、ぼくの。
「パパちんも職場に持って行くし
なーちゃんも喜ぶし、これ
引っ越してきたときに、ご近所さんがくれたんだよ。
ありがたいですね」
ママはゆっくり目を閉じる。
ありがたい、って有難い、って書くんだよ。
そう有ることが難しいって意味なんだよ。
もらえるなんて、ない、って意味なんだよ。
ってママは力説する。
ぼくは、そうなのか、
ありがたい
ありがたい
って呪文のように唱えて
段ボールに沈んだ。