大人だし

ふーん。

「なかなか無いことだと思うのよ」

で?

「大丈夫、大丈夫。
 なーちゃんも、大人だし。
 初めてじゃないし」

そうだけど。
でも冬だよ。
寒いんだよ。
いつもいないときは夏じゃん。

「でしょ?
 この時期に行くなんて、ないよね~」

ママはウキウキしている。

ぼくは不満げにママを見上げる。

「だって向こうがお店閉めてスキーに行くって言うんだもん。
 うちだってどっか行かなきゃ」

パパが勤めだしたお蕎麦屋さんのご主人は
毎年2月にお休みを取ってスキーに行くらしい。

「有給だよ、有給。
 ママは無給だけど」

ぼくは、ぶすっとする。

ママは、まぁまぁ、とぼくの頭を撫でた。

「正直な話、危ないと思っているんだ。
 来年、パパが今のお店に居るかは、わからない」

え?
そうなの?

「わからないけど、危ない気がするの。
 仲良くやってると思うよ。
 今のところは。
 でも、ここのご主人、損切できる人だから。
 ほら、いつもパパ、待ちぼうけ食らうでしょ?
 早めに出勤しても、ご主人の株の売買が終わるまで
 お店のカギ開かないじゃん。
 この前も、ママからすれば目が飛び出るほどの損切してたし。
 パパの事が気に入らないって思ったら
 突然バサッと、はいもう来ないでいいです、とか言いそう」

嫌な予感だね。
当たらないといいね。
ぼくは、ブルブルっと身体を震わせた。

「ね。
 パパも時々頑固になるからなぁ。
 でも、ぶつかれば従業員に勝ち目はないの。
 会社じゃなくて、個人事業のお店だからね。
 20年以上勤めたところだって、退職金も出なかったし。
 板前って、技術はあっても厳しいなぁ、って思うよ。

 でもママもお店やるてるから、経営者としても気持ちもわかる。

 だから、楽しめるときに楽しんでおかないと。
 なーちゃんにはご迷惑おかけしますが、ぜひご協力を」

ママはペコリと頭を下げた。

ぼくは大きく鼻から息を吐く。

いいよ。色々事情もあるんでしょ。
いいよいいよ。
ぼく、大人だし。

「ありがと、なーちゃん。
 ちゃんと楽しんで来るからね」

そして二人は出雲へ飛んで行った。


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