ぼくとママの応援

「お蕎麦屋さんに行ってみようと思う」

え?
夕飯?

とママは聞き返した。

「これ。出てたの」

パパは紙をテーブルに広げた。
それはハローワークで出されている求人の用紙だった。

そそそそそば屋??
なんでまた?

ママは用紙を凝視する。

パパは
えへへ。お蕎麦好きだから
って、照れている。

パパはお蕎麦屋さんに就職しようとしている。
ママは、うーん、と唸った後うなずいた。

「よし、わかった。
 でも一回お客さんとして、食べに行っておいでよ。
 それから、考えよう」

そしてママは
よし、なーちゃん、行くぞ!
ってぼくを見た。

え?ぼく?
ぼくも行くの?

パパは運転席に
ママは助手席に
ぼくはママの膝に
乗り込んで
れっつごー!って車を走らせた。

それはあまり長い時間じゃなく、
ばぁちゃんが愛したパチンコ屋さんよりも近い場所だったみたい。

路上に駐車して、ぼくとママは車で待機する。
パパはランチタイムギリギリのお客さんとして
1人で蕎麦屋に乗り込んだ。

「さてさて、なーちゃん、どうだろね」
ママはぼくの向きを変え、向き合う形をとる。
ちょっとワクワクする。

パパって、お蕎麦打てるの?

「さすがにそれはできないと思う。
 見た感じ、お蕎麦だけじゃなさそうだし。
 てんぷらは上手だからね。
 お蕎麦は和食だし。ちょっと刺身も出す店かな」

ママとぼくは車の窓に張り付いて、お店の外から中をうかがう。

でもさ、パパ、よく1人で入っていったね。
1人でお店入るなんて、できなかったのにね。

「ほんとほんと。
 マックさえ1人で入ったことなくてね」

ぼくとママは2人で、きゃきゃきゃと笑っていた。
そこにパパが帰ってきた。

「なに二人で楽しそうに」
ってパパもつられて笑っている。
状況報告のため、運転席に戻った。

ぼくとママは
で?で?
って身を乗り出す。

「行ってみようと思う。
 お蕎麦も美味しかったし」

ママは、パチン、と指を鳴らした。

「よし、わかった。今、電話しよう」

パパは、えー!って驚いたけど
そうだ、勢い大事、ってスマホを取り出し求人用紙に書かれた番号を入力する。

「あ、あの、ハローワークで紹介の紙をもらったんですが、
 実は今、近くにいまして
 実は今、食べに行ってた者でして」

一生懸命喋っているパパの横で
ぼくとママは、口パクで
がんばれ、がんばれ、って応援する。

「は、はい。では今、伺います」

そしてパパは翌日、お蕎麦屋さんになった。


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