ママにブンブンの刑をくらって
それでもまだぼくは
ブスブス思っていて
ベランダに出て
はぁ、とため息をついていた。
よっこいしょ、と横になる。
お日様に温められたコンクリートが
ぼくを優しく抱き留める。
気持ちがいい。
やわらかい風にひげがそよぐ。
おや。
お母さんに手を引かれた女の子が向かいの通りを歩いていた。
下を向いて、なんだかぐずぐず言っている。
「ほら、さっちゃん。見てごらん。猫さんがひなたぼっこしてるよ」
お母さんがぼくを指さした。
女の子の頬には涙の痕があったけど
ぼくを見つけると、ぱっと表情が明るくなった。
ぼくは、大きな声で声をかける。
どうしたのー、って。
「あー。猫さん、なんか喋った~」
女の子は笑顔でぼくに手を振る。
ぼくもつられて口角を上げた。
「あー。猫さん、笑った~
バイバーイ、猫さん、バイバーイ」
お母さんもほっとした顔でぼくに手を振る。
声には出さなかったけど
口の形で
ありがとう
って言ったのがわかった。
ぼくの鼻が大きくふくらむ。
これか。
これなのか。
ママが帰ってきたら、話してみよう。
きっとママは笑って
ほらね
って言うんだろうけど。