なんだ?
久しぶりだぞ、この匂い。
なんだっけ。
「まったくさー
なんでこしあんがいいのよ
つぶあんでいいじゃないか」
ママがぶつぶつ言いながらキッチンで
せっせと何かをこしている。
銀色の網に湯でた小豆をのせ、ヘラでつぶす。
「見てよ、なーちゃん
しちめんどくさい」
ぶー、と口を尖らせる。
ママ、何してるの?
「最後の火曜休みにパンでも焼くか
って言ったら、パパちんが
こしあんのアンパン!って。
なんでつぶあんじゃダメなのよ」
ママはぶつぶつ言いながらせっせとこしていく。
でもこしてあげるんだね。
ぼく、食べれないけど。
ははは、ってママは乾いた笑い声をだす。
「じゃ、匂いだけでも」
おぉう
これこれ。
ぼく、この匂い、好き。
「あたしもそう思う。
焼き立ての匂いが最高なのよ。
これを嗅げないパパちんのために
リクエストにお応えしてるのだ」
ママは鼻の穴を広げて、強く息を吐いた。
ぼくも、かじってみようかな。
止めないけど
ってママはパンの乗ったザルを差し出した。