「ぱぱちん。お話があります」
ママはトントンと椅子を叩く。
無理無理無理無理
と、パパは首を振った。
「まだ何も言っていません」
そうだよね、とパパは大人しく椅子に腰を下ろした。
なーちゃんは、ここ
と、ママはテーブルをトントンと叩く。
ぼくも大人しくテーブルに上がる。
ママは、みなさん、良いですか?と見回すと
大きく息を吸い込む。
「ぱぱちん。お家買って」
きゃー
無理無理無理無理
と、パパはさっきよりさらに大きく首を振る。
「なにも最高級の家を買ってくれ、って言ってるんじゃないの。
中古でいいから、出て行って、と言われない場所が欲しい。
さらには、ローンを組んだらここの家賃より安くなるような、家。
安くなった分を貯金に回して、ってしないと
仕事ができなくなったとたん、アウトだから。
お蕎麦屋さん、ボーナスなしだよね?
とても退職金の積み立てをしてくれてるとも思えない」
パパはぼくを抱き上げて、ギュっと抱きしめる。
うぇぇん、ママちゃん怖いよ~
ってぼくに顔を埋める。
「仲良くやれてて
楽しく通っている職場なら、辞める必要はないし
でも収支を合わせていかないと、それも続かない。
今もしママが妊娠でもしたら、アウトなの、知ってる?」
パパはブンブンと顔を振る。
ぼくもブンブンと顔を振る。
「うちはなーちゃんも居るし、子供を作ることに重きを置いていないけど
できてしまった場合の事は考えてる?」
パパはブンブンと頭を振る。
ぼくはキョトンとママを見返した。
「なーちゃんだけで、充分なんだけどね」
ママはぼくの額を突っつく。
「なんにせよ
なーちゃんは借り物の家におしっこし過ぎだし
パパちんは現金を物に変えておいたほうがいいと思う。
いくつか物件見繕ってみるから。
もし良さそうなのがあったら
考えて」
ぼくとパパは顔を見合わせる。
引っ越し、ってこと?