「歳を取ってできなくなったことを病気だと言って病院に行くのはおかしいと思う」
ママは言いきった。
昨日の夜、ぼくがソファに登ろうとしてジャンプして
いや、ジャンプしようとして転んだ時だ。
パパは「どこか骨が折れてるのかもしれない。お尻触ると凄い怒るし」
ぜったいどこかおかしいんだ、と言っていた時だった。
「尻尾も振れるし歩くことも階段の上り下りもできてる。
ご飯もよく食べるしお水も飲んでる。
おしっこも出るし快便だし。
ただ、寝てばかりになって筋肉を使っていない。
左の腿は動きが悪いな、とは思う。
ダッシュをしなくなったし。
でもそれはそれで当然だと思うの。
なーちゃんをいくつだと思ってるの?」
ママは転んだぼくを抱えて膝の上に乗せた。
「人間で考えると70歳だよ」
部屋がシンとなった。
ぼくもパパも黙る。
「動作がゆっくりになって
段差をジャンプして登れなくったっていい。
かわいそうとかそういう事じゃないの。
生きていれば当然の流れだ」
それでもママはぼくの左足を持って曲げ伸ばしをしている。
別に壊れていません、使えます、と言って。
一晩明けて空を見た。
そうだな、ぼくも永遠の命じゃなかった。