さくらちゃんのおばぁちゃん

この夏の話だけど、
ママが何やら大きな荷物を持って仕事に行った日があった。

ママ、なにそれ。

「喪服」

え?
それって、ばぁちゃんが死んだときに来てた、
あの、黒いやつ?

ぼくは、ばあちゃんが死んだあの日の夕焼けを思い出した。
リビングを真っ赤に染める夕日と
真っ白な雪の世界と
パパとママの黒い服。

それ着て仕事することにしたの??

「違うわよ。あたしの仕事着は白衣。
 黒着てどうすんのさ。
 さくらちゃんのおばぁちゃんが、亡くなったの。
 通夜のお手伝いに行くことになったんだ」

ママはスーツのカバーを半分に折りたたみ
靴とバックを大きな袋に詰めている。

え?さくらちゃんの?

さくらちゃんはおばぁちゃんが大好きで、
ママが出張に出かけて施術をするときに
いつも一緒にベッドに上がった。

「91歳だったからね。
 いつこの日が来てもおかしくなかったんだけど
 ついに来ちゃったか、って。
 母が寝たきりになった時も呼ばれたりして
 なかなか大変だったんだけど、
 それでも、ずいぶん可愛がってもらったなぁって」

そのおばぁちゃんは、ママが自分のお店を持つ前からのお客さんで
つまりは、ずいぶん長い付き合いで
独り暮らしだったママの部屋の玄関のノブに
果物をかけておいてくれたり
入院先の病院に呼ばれたこともあったり
営業時間外にバリバリ電話が来たり
かけて来たけど、本人は耳が悪くて聞こえない、とか
言うだけ言って切ってしまったりするので
ママは休みの日にも出て行ったり
ぼくが知っているだけで、結構色々あるんだけど
あたしはもう、あんたの言う事しか聞かないよぉ!って
言ってくれてたりして
ママが心をつかまれた人のひとりだったと思う。

「亡くなる二日前にも来てくれ、って連絡あったんだけど
 その時間、行けなくて。
 そのまま病院戻って、亡くなったみたいで。
 あたしが行ってたら、もう少し時間が伸びたのかなぁ」

え!
ママ、そんなことできるの?

「あたしが何かできるわけじゃないよ。
 本人の希望が叶うことで、伸びるものもある、ってこと」

じゃ、行ってきます。

と言ってママは出て行って
夜遅くに帰ってきた。

良い顔してたよ、
って寂しそうに微笑むママに
ぼくはそっと、寄り添った。


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