お墓参り

ちーちゃんが居なくなって、
2、3日して
ママは
「なーちゃん、お墓参りに行こ」
ってぼくを誘った。

まだ、ママの目は腫れている。

ばぁちゃんのお墓参りは連れて行ってもらったことないんだけど
ちーちゃんはすぐそばで眠っていた。

それは庭のウッドデッキから見える場所だった。

ママのかいた胡坐の中に、ぼくは座る。

ママは、ぽつりぽつりと話し出した。

「朝、一人目のお客さんが入っている間は、鳴いてたんだ。
 籠から出ちゃわないか、ちょこちょこ見てたんだけど、
 出てこないの。
 おかしいな、って思ってて。
 うちに居た時は、タッパから脱走したりしてたじゃない。
 で、お客さん帰って、お腹が空いているのかな、とか
 寒かったかな、とか思ってミルクあげたら
 ちょっと飲んだんだけど、げほ、って吐いて」

ママの目は虚ろに宙を見ている。

「驚いたよね。初めて吐いたから。
 器官に入っちゃったのかな、って思ったんだけど
 ぐったりしてて。
 頭も持ち上げないの。だら、ってして。
 カイロを挟んだタオルの上に乗せたら
 鳴き声も出なくて。ゼイゼイして。
 そしたら、もう一回、げほ、って。
 今度はミルクじゃなくて、血だったの」

ぼくは黙って、ママが話すのを聞いていた。
打つ相槌なんて、何もなかった。

「パパちんに電話してもつながらないし、
 もうダメだ、と思って、次の予約のお客さんに
 ごめんなさい、病院に行きたいんで、キャンセルさせてください、
 って電話して。
 でも、お客さん、もう家から出ちゃってるのに、って怒られて。
 それでもなんとか行かせてもらえて。
 外出てタクシー捕まえて、病院に着いたんだけど
 受付の人が先生呼びに行ってる間に、息が止まっちゃって」

ママの瞳から涙がこぼれ落ち、ジーンズを濡らしていく。
ぼくはその場所に、顎を乗せ、ママの涙を受けた。

ぽたぽた、ぽたぽた。

ママは泣くときに、目を閉じない。
見開いたままの目から、雨の様に落ちてくる。

しばらくそんな時間が過ぎ、
ぼくの頭がびしょびしょになったころ、

「それでも、あたしは、拾うことを辞めないから!」

ってママが宣言した。

ふ、と、ぼくの鼻から息が漏れ、
だよね、ってつぶやく。

ちーちゃんは、短い時間だったけど、
ぼくらの家族だった。
短きゃダメで、長きゃ良いってものでもない。
ぼくは、ちーちゃんが来て、
色んな感情がグルグルしたし
色んな事を思い出したし
未来を楽しみに思うこともあった。
それが終わってしまったからって
最初から無ければよかった、とは思わない。
もっと長く、と思うことは、我がままなのかもしれない。
短かったけど、楽しかったよ。

また、いつかどこかで。

「あたしの力不足で、ごめん!
 でも、楽しかった!
 あたしの顔も、わからないだろうけど
 あたしは、会えてよかった、って思ってる!

 また、いつかね!」

ぼくは、泣きながら笑うママを見上げて
まだ早い春の風にひげをそよがせた。


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